退職所得控除を2回使うには|退職金の後、iDeCoを何歳で受け取るか
この記事の目次
- 01 退職金を先に受け取った後、iDeCoの控除はもう使えないのか
- 02 iDeCoには「拠出・運用指図・受給」の3つのフェーズがある
- 拠出フェーズ
- 運用指図フェーズ
- 受給フェーズ
- 03 退職金を先に受け取る場合、空けるべきは「約20年」(10年ではない)
- 改正で延びたのは「iDeCo先→退職金後」の方向
- 「退職金先→iDeCo後」は改正対象外
- 04 退任47歳→受給67歳のモデルケースで、手取りを置いてみる
- モデルの設定値
- 共済側の手取り
- iDeCo側の手取り
- 05 1年足りないとどうなるか――「20年後ちょうど」が安全ライン
- 退任年齢別の早見
- セーフとアウトで手取りはどれくらい違うか
- 06 65歳で拠出を終えた後、運用指図者として2年運用し、67歳で受け取る
- 拠出終了後〜受給までを運用指図者でつなぐ
- 運用指図者期間は控除の年数に入らない
- 参考
40代で退職金を先に受け取ると、iDeCoの控除はもう食われて終わりなのか。私もそう思い込んでいました。でも、違いました。
カギは、iDeCoを「いつ受け取るか」を設計することです。退職金と受け取りの年を十分に空ければ、iDeCoの控除を別枠で使えます。掛けるのをやめる年と、受け取る年は、別に動かせるからです。
この記事は、退任47歳・iDeCo受給67歳というモデルケースで、手取りを実際の数字に置いてみます。
退職金を先に受け取った後、iDeCoの控除はもう使えないのか
私が最初につまずいたのが、ここでした。事業承継のとき、私は小規模企業共済を先に受け取ります。共済は税の上で退職金と同じ扱いです。すると退職所得控除は共済で先に使われ、後から受け取るiDeCoには枠が残らないのではないか——そう思い込んでいました。
不安は2つありました。「退職金を先にもらうと、iDeCoの控除はゼロになるのか」。そして「使えるとしても、何歳で受け取れば間に合うのか」。
調べて分かったのは、どちらも「受け取る年齢の設計しだい」だということです。退職金とiDeCoの受け取りを一定の年数だけ空ければ、iDeCoの控除を別枠で計算できます。退職金が先のときの目安は約20年。いわゆる19年ルールです。仕組みの中身は前の記事で図解したので、ここでは繰り返しません。
→ 14年経営者の退職金設計:iDeCo一本+退職所得控除『2回使い』に辿り着いた
「退職金とiDeCo、それぞれで満額の退職所得控除を受けられないか」。そう考えて、受け取る年齢の組み方を調べました。
iDeCoには「拠出・運用指図・受給」の3つのフェーズがある
この記事の肝はここです。iDeCoは一つのかたまりに見えて、実は3つのフェーズに分かれています。掛金を出す時期、運用だけを続ける時期、受け取る時期——この3つです。だから、掛金を65歳でやめても、すぐ受け取らずに運用を続け、67歳で受け取る、という置き方ができます。
拠出フェーズ
掛金を出してiDeCoを積み立てている時期です。いまの制度では65歳になるまで掛けられます。2026年12月の改正で70歳までに延びる見込みですが、これは予定で、内容が変わる可能性もあります。本記事は現行の65歳までで試算します。
運用指図フェーズ
掛金を止めて、それまで積み上げた残高の運用だけを続ける時期です。この立場を「運用指図者」と呼びます。新しい掛金は入れませんが、どの商品で運用するかは指図できます。75歳まで続けられます。
受給フェーズ
積み上げたお金を受け取る時期です。60歳から75歳までの好きなときに、一時金でまとめてか、年金のように分けてか、選んで受け取れます。
3つのフェーズの年齢を並べると、こうなります。
| フェーズ | できること | 年齢の目安 |
|---|---|---|
| 拠出 | 掛金を出して積み立てる | 65歳になるまで(改正後は70歳までの予定) |
| 運用指図 | 掛金は止め、運用だけ続ける | 75歳まで |
| 受給 | 一時金や年金で受け取る | 60〜75歳の好きなとき |
ここで腹に落ちたのは、掛けるのをやめる年齢と、受け取る年齢は別物だということです。65歳で掛け終えても、すぐ受け取る必要はありません。運用指図者として2年続け、67歳で受け取れます。
受け取りを後ろにずらせれば、退職金との間に20年の差を作れます。何歳まで掛けるかではなく、何歳で受け取るか。動かせるのは、そこでした。
「iDeCo=65歳で終わり」だと思い込んでいたのが、いちばんの勘違いでした。受け取りはもっと後ろに置けます。
退職金を先に受け取る場合、空けるべきは「約20年」(10年ではない)
ここは、前の記事を読んでくれた人に、いちばん誤解してほしくないところです。前の記事では「2026年の改正で10年に延びた」という話を書きました。これを読んで「じゃあ10年空ければいいんだ」と受け取ると、私のケースでは逆方向の理解になってしまいます。
ポイントは、退職金とiDeCoの「どちらを先に受け取るか」で必要な年数が違う、という点です。
改正で延びたのは「iDeCo先→退職金後」の方向
2026年の改正で年数が延びたのは、iDeCoの一時金を先に受け取り、その後に退職金を受け取る順番です。この方向は、以前は約5年空ければよかったものが、約10年に延びました。いわゆる10年ルールと呼ばれる方です。これは通称で、法令上の正式名称ではありません。
「退職金先→iDeCo後」は改正対象外
一方、退職金を先に受け取り、その後にiDeCoを受け取る順番は、今回の改正の対象外です。従来どおり、約20年を空ける必要があります。前年以前19年内に退職金を受け取っていると重複の調整に入るため、19年ルールと呼ばれます。これも通称で、実際の感覚としては約20年と思っておくのが安全です。
方向と必要年数の対応を、表にしておきます。
| 受け取る順番 | 必要な空白期間 | 通称 |
|---|---|---|
| iDeCoが先 → 退職金が後 | 約10年 | 10年ルール |
| 退職金が先 → iDeCoが後 | 約20年 | 19年ルール |
私は共済を先に受け取る側なので、「退職金が先、iDeCoが後」の順番です。当てはまるのは、改正で延びた10年ではなく、従来どおりの約20年の方。ここを取り違えると設計全体が崩れるので、私は約20年を狙います。
順番を間違えると、必要な年数が倍近くずれます。まず自分がどちらの順番かを確かめておくのが先決です。
退任47歳→受給67歳のモデルケースで、手取りを置いてみる
自分の出口がどうなるか、一つのモデルケースで数字を見てみます。
モデルの設定値
| 項目 | モデル設定値 |
|---|---|
| 退任・共済受取 | 47歳・約1,000万円(モデル設定値) |
| 共済加入年数 | 25年(モデル設定値) |
| iDeCo開始 | 35歳(モデル設定値) |
| iDeCo拠出 | 35〜47歳 月23,000円/47〜65歳 月5,000円(加入者期間30年) |
| 運用指図者 | 65〜67歳 |
| iDeCo受給 | 67歳(47歳から20年差・セーフ) |
| 運用利回り | 年7%(試算上の仮定・保証なし) |
※「47歳から月5,000円」は最低額です。退任後も最低額で掛け続けるのは、加入者期間(=iDeCoの控除の対象年数)を伸ばすためです。ここで拠出をやめると加入者期間は12年で止まり、控除も小さくなります。詳しい意図は記事の後半で書きます。
共済側の手取り
まず共済から。加入年数を25年とすると、退職所得控除はおよそ1,150万円。受け取る共済が約1,000万円なら、控除の枠に収まり、課税される部分は出ません。
つまり共済側は、約1,000万円がそのまま手元に残ります。控除に収まった分は、まるごと非課税です。
iDeCo側の手取り
次にiDeCoです。少し段階を踏みます。
35歳から65歳まで掛け、その後67歳まで運用指図者として運用を続けたとします。年7%で回ると、67歳のiDeCo評価額はおよそ2,335万円。内訳は元本が約439万円、運用で増えた分が約1,896万円です。年7%は仮定で、実際は上にも下にも振れます。
iDeCoの控除は、掛けていた年数で決まります。掛けたのは35歳から65歳までの加入者期間30年。65〜67歳の運用指図者の2年は、ここに入りません。30年で計算すると、控除はおよそ1,500万円です。
ここからの計算を、表にまとめます。
| 項目 | 概算 |
|---|---|
| iDeCo評価額(67歳・年7%) | 約2,335万円 |
| iDeCo退職所得控除(加入者期間30年) | 1,500万円 |
| 課税される退職所得 | 約417万円 |
| 税合計 | 約83万円 |
| iDeCo手取り | 約2,252万円 |
課税される退職所得は、評価額から控除を引いた残りの半分です。(2,335万円−1,500万円)÷2で約417万円。これにかかる税が、所得税・住民税・復興特別所得税を合わせて約83万円(所得税約41万円・住民税約42万円・復興特別所得税約0.9万円)。差し引いて、iDeCoの手取りは約2,252万円です。
共済の約1,000万円と合わせると、総手取りは約3,251万円。退職金とiDeCoが、それぞれ別枠で控除を使えているのが、数字で見えてきます。
こうして数字にすると、20年ずらす価値がはっきりします。ただしこれはモデルの数字です。実際の控除額や税額は人それぞれなので、自分の数字での試算は税理士に頼むのが前提です。
1年足りないとどうなるか――「20年後ちょうど」が安全ライン
ここで、見落とすと痛い注意点を一つ。「20年空ける」は、ぎりぎりで狙うと危ういラインです。1年でも足りないと、重複の調整に入り、iDeCo側の控除が削られます。セーフとアウトで、手取りに差が出ます。
退任年齢別の早見
退任した年齢から、何歳以降に受け取れば約20年を満たせるかを並べます。
| 退任年齢 | 約20年後(受給の目安) | 受給上限75歳との関係 |
|---|---|---|
| 47歳 | 67歳以降 | 余裕がある |
| 50歳 | 70歳以降 | やや余裕は減る |
| 55歳 | 75歳ぎりぎり | ほぼ上限と重なる |
iDeCoの受け取りは75歳が上限です。退任が遅いほど、約20年後が75歳の壁に近づきます。55歳退任だと約20年後は75歳ちょうどで、後ろにずらす余地がほとんど残りません。早く退くほど、選べる幅は広がります。
セーフとアウトで手取りはどれくらい違うか
控除の差だけを取り出してみます。運用益の影響を消すため、同じ評価額で、控除が満額のときと、重複調整で削られたときを並べます。
たとえば一般的な65歳で受け取ると、共済を受け取った47歳から18年。20年に2年足りないので、重複調整で控除が約480万円削られます。65歳時点の評価額2,040万円で、満額の場合と比べます。
| 控除が削られる(65歳・20年未満) | 控除が満額(20年以上) | |
|---|---|---|
| 退職所得控除 | 約1,020万円 | 1,500万円 |
| 課税される退職所得 | 約510万円 | 約270万円 |
| 税合計 | 約112万円 | 約45万円 |
| 手取り | 約1,928万円 | 約1,995万円 |
同じ2,040万円を受け取るのに、控除が満額か削られるかだけで、手取りは約67万円変わります。1年でも足りなければ同じく調整に入り、受取額が大きいほど差は開きます(数十万円から200万円規模)。
「20年後ちょうど」を狙う設計は、退任が遅いほど選択肢が狭まります。私は47歳退任の想定なので67歳以降に置けますが、退任が10年遅ければ余白はかなり小さい。早く退く人ほど、この設計は効きます。
65歳で拠出を終えた後、運用指図者として2年運用し、67歳で受け取る
最後に、最初の不安に戻ります。「いつ受け取れば間に合うのか」の回収です。
掛金を65歳でやめても、受け取りは67歳に置けます。その2年は運用指図者として、積み上げた残高の運用だけを続けて、受け取りを待ちます。
拠出終了後〜受給までを運用指図者でつなぐ
この2年を運用指図者で埋めることで、47歳で共済を受け取ってから20年後の67歳に、iDeCoの受け取りを合わせられます。受け取りの年齢を動かせる余白が、ここで効いてきます。
運用指図者期間は控除の年数に入らない
ただし、注意が一つあります。運用指図者でいる2年間は、iDeCoの退職所得控除の年数には入りません。控除に効くのは、あくまで掛けていた加入者期間です。だからこそ、掛けている間に年数を伸ばしておく意味があります。
だから私は、47歳から65歳までは月5,000円という最低額でiDeCoを掛け続けるつもりです。金額は最低でも、掛けているその月は加入者として年数に数えられます。受け取りまでの長い空白を、控除に効く形で年数として確保しておく——そのための置き方です。戦略として踏み込む部分なので、実行する前には税理士に一度確かめます。共済を満額から最低額に下げたときの実体験は、別の記事に書きました。
→ 思考停止で満額にした小規模企業共済|出口の課税に10年気づかなかった
なお、運用指図者になると口座の手数料は下がります。細かいコストの話は、前の記事(月171円・月66円)に譲ります。
「掛けるのをやめる年」と「受け取る年」を分ける。これに気づけたのが、いちばん大きかったです。
ふく郎のまとめ
- iDeCoは「拠出・運用指図・受給」の3フェーズが別々に動く。65歳で掛け終えても、67歳で受け取れる。
- 退職金(共済)を先に受け取る順なら、空けるべきは約20年(19年ルール)。2026年改正で10年に延びたのは「iDeCo先→退職金後」の逆方向で、本ケースは対象外。
- モデルケース(退任47歳・共済1,000万/iDeCo67歳受給)では、共済は全額非課税、iDeCoは控除1,500万を別枠で使い、総手取りは約3,251万円という試算になった(年7%・あくまで仮定)。
- 「20年後ちょうど」が安全ライン。1年足りないと重複調整に入り、手取りが数十万〜200万円規模で変わり得る。退任が遅いほど受給上限75歳との余裕が減る。
- 運用指図者の期間は控除年数に入らない。控除に効くのは掛けている加入者期間。最低額拠出の扱いは戦略の部分なので、実行前に税理士へ確認する。
本記事は2026年6月時点の制度に基づく、ふく郎個人の試算とモデルケースです。設定値(共済加入25年・iDeCo35歳開始・年7%利回りなど)はすべて試算用の仮の数字で、実在の数値ではありません。退職所得控除の重複調整・課税区分・控除額は、勤続年数・加入期間・受取額・受け取る順番で一人ひとり変わります。とくに最低額拠出と加入者期間の扱い、重複調整の差額は解釈に幅があります。実行前に必ず税理士・社労士へ自分の数字で試算を依頼してください。
参考
代々続く家業を継いだ40代半ばの現役経営者。近年中に事業を第三者へ譲り、FIREを目指す。 サラリーマンとは違う「経営者視点」のお金の話を、個人資産の実数値を公開しながら発信中。
ふく郎について詳しく →次に読む
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