思考停止で満額にした小規模企業共済|出口の課税に10年気づかなかった
この記事の目次
小規模企業共済は、掛金の全額が所得控除になります。だから「掛けるほど得だ」と満額にしていないでしょうか。
私は10年、まさにそう思って満額のまま放置し、いま後悔しています。受け取るときの税金、つまり「出口」を、一度も考えていなかったのです。FIREを真剣に計算して、初めてそれに気づきました。
これは制度の解説ではありません。自分の失敗をそのまま残す一次記録です。読み終えるころには、いまかけている共済を「入口の節税」だけでなく「出口の課税」まで含めて点検する観点が手に入ります。
同じ間違いをする人が一人でも減れば、と思って書きます。
「節税になる」の一言で、私は満額にした
結論から書きます。私は深く考えず、勧められるまま掛金を制度の上限(満額)にしました。
20代で家業に入った頃のことです。顧問税理士に「節税になりますよ」と勧められました。小規模企業共済という制度でした。経営者が自分のためにお金を積み立てる、退職金の代わりのような仕組みです。
当時の私は、制度をよく知りませんでした。「小さな事業をやっているなら、普通は入るものなのだろう」。その程度の理解です。掛金をいくらにするかも、ほとんど考えませんでした。「節税になるなら、多いほどいいはずだ」。そう思って、迷わず上限にしました。
このブログを始めた経緯は、最初の記事に書いています。
なぜ「掛けるほど得」と思い込んだか
理由はひとつです。掛金が全額、所得控除になると聞いたからです。
所得控除という言葉を、やさしく言い直します。税金は、もうけ全体にかかるのではありません。もうけから一定額を引いた残りにかかります。その「引ける額」が控除です。小規模企業共済は、掛けた額がまるごとこの「引ける額」になります。
私の頭の中の理屈は単純でした。たくさん掛ければ、引ける額が増える。引ける額が増えれば、その年の税金が減る。だから掛けるほど得だ。入口の話だけを見れば、この理屈は間違っていません。
問題は、私がそこで考えるのをやめたことです。掛けたお金は、いつか自分が受け取ります。そのとき税金がどうなるか。私はそれを一度も考えませんでした。入口だけ見て、出口を見なかったのです。
10年、見直しもしなかった
そのまま10年が過ぎました。掛金は満額のまま、一度も見直していません。
途中でiDeCoという制度が始まりました。これも自分で老後資金を積み立てる仕組みで、掛けた額が所得控除になる点は共済と似ています。私は同じ調子で、こちらも満額にしました。理由は前と同じです。「控除になるなら、多いほどいい」。
止めてくれる人もいませんでした。先代もこうした制度には詳しくなく、助言はありませんでした。顧問税理士からも、入口の節税以上の話は出てきませんでした。
私自身、疑いもしませんでした。一度決めた満額が、ずっと続いていく。それを「そういうもの」と思っていました。家業の経営は、考えることが山ほどあります。すでに動いている積み立てを、わざわざ点検し直す発想がなかったのです。
恨み言を言いたいわけではありません。誰かが悪かったという話でもありません。ただ、出口を考えないまま10年が流れた。それが事実です。
「すでに動いている積み立てを、わざわざ点検し直す」発想すら、当時の私にはありませんでした。経営者の頭は、目の前のことで日々いっぱいなんですよね。
FIREを真剣に計算して、初めて気づいた
転機は、1年ほど前でした。FIRE、つまり事業を手放して早めに仕事から退く生き方を、真剣に検討し始めた頃です。
家業をなぜ手放すのか。その理由は別の記事に書きました。
このとき私は、事業に区切りをつけた場合のお金を、自分で計算しました。退職金がどうなるか。その後の暮らしがどう続くか。表に数字を並べていきました。
そこで、ようやく気づいたのです。私が積み立ててきた共済は、受け取るときに税金がかかる。その税金を、私は一度も計算に入れていませんでした。
しかも、ただ税金がかかるという話ではありませんでした。受け取り方によって、税の扱いが変わります。受け取る額が大きいほど、軽くしてくれる枠を超えてしまう部分が出てくる。その枠を、私は共済だけで使い切ってしまう見込みでした。さらに、積み立てている間にお金が増える割合も、ごくわずかでした。
10年かけて積み上げたものの出口が、まるごと設計されていなかった。それに気づいた瞬間の、遅すぎたという感覚は、今もはっきり覚えています。
見落としていた「出口」を、いま正しく言うと
ここで、私が見落としていた制度の事実だけを、最小限に書きます。私の当時の思い込みではなく、確認した正しい内容です。
まず、受け取り方で税の扱いが変わります。整理すると、次のとおりです。
| 受け取り方 | 税の扱い |
|---|---|
| 一括で受け取る | 退職所得 |
| 分割で受け取る | 公的年金等の雑所得 |
| 自分の都合でやめたときの手当金 | 上記とは別のルール |
次に、退職所得には税を軽くする枠があります。これを退職所得控除と呼びます。勤めた年数が長いほど枠が大きくなり、共済では掛金を納めた年数がこの「年数」にあたります。
| 掛金を納めた年数 | 税を軽くする枠(退職所得控除) |
|---|---|
| 20年まで | 1年あたり40万円 |
| 20年を超えた分 | 1年あたり70万円 |
実際の税金は、受け取る額からこの枠を引き、さらにその残りの半分にだけかかります。
注意したいのは、この枠が一人につき限られている点です。会社からの退職金や、iDeCoなど他の制度のお金も、同じ枠を使うことがあります。受け取りが重なると、枠が目減りすることがあるのです。年数の細かい条件は人によって違うので、ここでは深入りしません。ただ「他の制度と重なると、軽くする枠が削られ得る」。これを知らないまま進んだのが、私の失敗でした。
私はこの枠を、共済だけで超えていました。超えた部分には、当然ながら税金がかかります。入口で減らした税金の一部を、出口で払い直す形になります。それを10年、考えていませんでした。
「退職所得控除」「公的年金等の雑所得」など、難しい言葉が並びます。要は「受け取り方で税金の計算が全然違う」——ここだけ、頭の隅に置いてもらえれば十分です。
去年、満額から最低額に下げた
計算を終えて、私は去年、掛金を上限から最低額に下げました。最低額は月1,000円です。積み立てを完全にやめたわけではなく、いちばん小さい額まで減らしました。
ここで、当時の自分を一方的に責めるのは公平ではないとも思っています。私が加入した頃は、個人が手軽に投資できる環境が、今ほど整っていませんでした。共済は数少ない選択肢のひとつでした。その時代の判断としては、ありえないものではなかった。そこは正直に書いておきます。
ただ、今は事情が違います。NISAやiDeCoという選択肢があります。それぞれ性質が違います。並べると、こうです。
| 制度 | 掛金の所得控除 | 引き出しの自由度 |
|---|---|---|
| NISA | なし | いつでも引き出せる |
| iDeCo | あり | 原則60歳まで引き出せない |
| 小規模企業共済 | あり | 任意解約は可。ただし12か月未満は掛け捨て/20年未満は元本割れ。受け取りは廃業・退職が前提 |
お金が長く動かせない、という共通の重さはあります。ただ、自由度も出口も制度ごとに違います。
どれが上で、どれが下という話ではありません。立場によって最適は変わります。私が言えるのはひとつだけです。「節税になる」の一言で思考停止し、満額にしてはいけなかった。出口、つまり受け取るときの税金から逆算して、入る額を決めればよかったのです。
これは推奨ではありません。私の失敗の記録です。
制度を否定しているのではありません。「入口だけ見て、出口を見ない」を10年やってしまった、それだけの話です。同じ罠にはまる方が一人でも減ればと思います。
ふく郎のまとめ
- 私は「全額控除=掛けるほど得」と思い込み、勧められるまま掛金を満額にした。
- 10年、一度も見直さなかった。先代も顧問税理士も、出口までは言及しなかった。
- FIREを真剣に計算して、初めて気づいた。受け取り時の課税を設計しておらず、軽くする枠を共済だけで超えていた。
- 去年、満額から最低額に下げた。判断は「思考停止で満額」ではなく「出口から逆算」であるべきだった。
すでに小規模企業共済やiDeCoを満額にしている方は、一度、受け取るときの税金まで含めて手元で計算してみてください。入口の節税額だけでなく、出口で何が起きるか。そこまで見て初めて、自分にとっての適切な額が見えてきます。
この記事は2026年5月時点の制度をもとに書いています。税や年金の制度は毎年のように改正されます。最新の正確な情報は、国税庁・中小機構・iDeCo公式・金融庁といった公式の情報源と、ご自身の税理士で必ず確認してください。
代々続く家業を継いだ40代半ばの現役経営者。近年中に事業を第三者へ譲り、FIREを目指す。 サラリーマンとは違う「経営者視点」のお金の話を、個人資産の実数値を公開しながら発信中。
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