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FXを1〜2ヶ月で即撤退した経営者の話|事業に集中できなくなる、丁半勝負だった

読了 約10分
この記事の目次

FX(外国為替証拠金取引)に手を出したのは、もう10年以上も前のこと。期間は1〜2ヶ月で、即撤退しました。

損失は、トータルでおよそ10万円。投資の失敗としては小さい額です。

ただ、お金以上に強く心に残ったのは、「これは私のやる投資ではない」という感覚でした。

入金は何度かしたものの、結局出金はできずじまい。気がついたら、預けたお金は画面の中で消えていく。それは投資というより、数字で丁半勝負をする画面でした。

「分散投資の一環」のつもりで始めた

きっかけは、知り合いに「FXで稼いだ」という人がいたことです。

当時の私は投資を始めて間もない頃で、特に資産状況に問題を抱えていたわけではありませんでした。ただ、株や投信に加えて、「為替も触ってみると分散投資になるんじゃないか」と、なんとなく思ったのです。

当時のFXに対する私のイメージは、こうでした。

  • レバレッジを効かせれば、短期間で資産を増やせる
  • ロスカットを設定しておけば、設定以上の損失は出ない

実際、日本のFXは2011年から個人向けレバレッジ上限が25倍に引き下げられています(それ以前は50倍)。「昔よりは安全になっている」「業者がロスカットしてくれる」と聞けば、初心者の私には「怖くない投資」のように見えました。

いま振り返れば、この2つの認識が、決定的に甘かったところです。

ふく郎

ロスカット信仰、いま振り返ると本当に甘い認識でした。「業者が損失を止めてくれる」と思い込んでいた当時の自分に、いまの私が声をかけるなら、まずここから直したい。

1〜2ヶ月、ドル円とにらめっこした日々

業者は、いま振り返るとSBI FXトレードでした。通貨ペアはドル円のみ。レバレッジは、極端に高くはしていなかったはずです。

入金額は、10万円から30万円程度。初心者なので、いきなり大きな額は入れていません。

ところが、入金は何度かしたものの、出金はできずじまいでした。

勤務時間中も、スマホでチャートをチラッと見ては、ちょこちょこと注文を入れる。短期で売買して、勝ったり負けたりを繰り返す。トータルで残ったのは、約10万円のマイナス。

数字だけ見れば、たいした失敗ではありません。

ただ、その1〜2ヶ月のあいだに、自分の中で決定的に何かが壊れていく感覚がありました。それは、事業に集中できなくなる感覚です。

これは「投資」ではなく「丁半勝負」だった

撤退を決めた一番の理由は、「これは投資判断ではなく、完全にギャンブルだ」と気づいたことでした。

勝った取引もありました。けれど、いま振り返れば、それは完全に運でした。自分の分析や判断で勝ったわけではない。同じ理屈で次に注文を入れても、勝つときもあれば負けるときもある。それは「分析」ではなく、丁半博打と何ら変わりません。

そして決定的だったのは、FX市場の本質的な構造を理解したことです。

株式市場では、企業が利益を生み、配当を出し、内部留保で成長していきます。長期で見れば、市場全体のパイそのものが拡大する。だから、インデックスファンドのように「市場全体に乗っかる」やり方で、参加者がほぼ全員プラスになることが、実際に起きてきました。

ところが、為替市場は違います。通貨の交換比率が変わるだけで、新しい価値が生まれるわけではありません。誰かが為替差益で1万円儲ければ、別の誰かが1万円損をしている。市場全体の損益を足し合わせると、ゼロ。これが「ゼロサムゲーム」です。

しかも、現実はゼロサムでは済みません。FX業者は取引のたびにスプレッド(売値と買値の差)を抜きます。長期で持ち越せばスワップポイントの差で消える分もある。これを参加者全体で見ると、入れたお金の合計より、市場から取り戻せるお金の合計のほうが少ない。つまりマイナスサムです。

実際、米国の規制当局(CFTC)が公表しているデータでは、登録業者を通じて取引した個人FX顧客の約3分の2が損失を出しているとされます。欧州の規制当局(ESMA)の分析では、CFD・FX取引のリテール口座の74〜89%が損失だったため、レバレッジ規制と「ネガティブバランス保護」が導入された経緯があります。

日本のデータは少し違って、ある業界調査では「単年では6割が利益」と出ているのですが、これは自己申告ベースで、大きく負けて既に退場した人は母集団から消えている(いわゆる生存バイアス)ので、額面通りには受け取れません。

地域や調査によって数字はばらつきますが、「期間が長くなるほど、勝ち残る人は減る」というのは、各国のデータが共通して示している傾向です。

私の1〜2ヶ月の10万円損失は、その「短期で退場する層」の典型例でした。

ふく郎

経済学の話、難しく感じても大丈夫です。要は「市場の仕組み的に、参加者全員が勝てる構造ではない」ということ。インデックス投資との根本的な違いは、ここにあります。

本業に集中できない、これが致命傷だった

ゼロサム構造の話以上に、私にとって致命傷だったのは、事業に集中できなくなったことです。

ポジションを持っていると、仕事中もチャートが気になる。会議の最中でも頭の片隅で為替レートを意識する。昼休みになるとスマホを開いてしまう。

一瞬の値動きで損益が大きく動くから、気が休まる時間がありません。本業の判断に100%集中したいときに、別のところに意識の何割かを持っていかれる。仕事に100%集中できなくなる——この感覚が、何より私を撤退に向かわせました。

これは、私だけの特殊な感覚ではないようです。

実は、FX業者自身も「熱中しすぎると本業に支障が出る」と公式に注意喚起しています。私が使っていたSBI FXトレードの公式サイトでも、初心者向けコラムに「仕事に集中できない、寝不足になるなど本業に支障をきたす可能性がある」と明記されているのを後で知りました。業者自身が、自分たちの商品が本業を壊しうると認めている。これは小さくないシグナルです。

医学的にも、デイトレやFXのような取引は「ギャンブル依存と同じ脳のメカニズム」を働かせると指摘されています。予測不能な報酬(勝ち負け)が脳の報酬系を強く刺激し、やめたくてもやめられなくなる。精神医学では、これをギャンブル障害の枠組みで扱うのが一般的だと、複数の精神科医が論じています。

副業のつもりが、本業を壊す。これを「本末転倒」と呼ばずに、なんと呼べばいいか分かりません。

続けていたら、確実に負けていた

私は1〜2ヶ月で抜け出せましたが、もしそのまま続けていたら、どうなっていたか。

行動経済学に「プロスペクト理論」という有名な研究があります。ダニエル・カーネマンたちが1979年に提唱した理論で、カーネマンはこの功績で2002年にノーベル経済学賞を受賞しています。

簡単に言えば、人間は、同じ金額の利益から得る満足より、同じ金額の損失から受ける苦痛の方が、約2.25倍大きい——という研究結果です。

これがFXの世界で何を意味するか。

損失が出ている取引を、人はなかなか確定できません。「もう少し待てば戻るかも」と思って塩漬けにし、戻らないまま損失が膨らみ、最後はロスカット。逆に、利益が出ている取引は早めに確定したくなる。「もっと伸びるかも」より「この利益を失いたくない」が勝つ。

結果として、勝ちは小さく、負けは大きくなる。勝率が5割を超えても、トータルで負ける。これが、FXで多くの個人投資家が負ける構造的な理由です。

そして、もう一つ怖い話があります。

「ロスカットを設定しておけば、設定以上の損失は出ない」——これは、平常時の話です。

2015年1月15日、スイス国立銀行が為替政策を突然変更したことで、スイスフランが対ユーロで一気に約40%急騰しました。「スイスフランショック」と呼ばれる事件です。

値段が瞬時に飛んで、その間の気配値が消えました。ロスカット注文が、想定より遥かに不利なレートで約定することになり、多くの個人投資家の口座が、預けた証拠金を超えてマイナス残高になりました。

日本の業界全体の集計では、国内FX業者で総額33億円の未収金が発生。個人顧客19億円・1,137件が、預けた以上の損失を負ったのです。

「ロスカットがあるから安心」というのは、急変動が起きないことを暗黙の前提にした、ローカルな安心です。本物の危機が来たとき、ロスカットは設計通りに動きません。

当時の私が抱いていた「ロスカット設定で損失限定できる」というイメージは、この種のテールリスクに対しては、完全に無力でした。

ふく郎

私はラッキーでした。1〜2ヶ月で抜け出せたのは、本当に運がよかっただけ。もしスイスフランショックの場に居合わせていたら、桁違いの損失を抱えていたかもしれません。

先人として、いま伝えたいこと

10年以上経って、いま振り返って、率直に思います。

経営者にとって、FXは絶対にお勧めできません

理由は3つあります。

ひとつめは、事業に集中できなくなること。事業の経営判断は、本来、100%の集中を求められる仕事です。為替の細かい値動きに意識を取られて、本業の重要な判断を誤ったら、失う金額はFXの10万円どころでは済みません。

ふたつめは、事業の努力が報われる世界と、FXの世界が、根本的に違うこと。事業では、自分の判断と行動が、時間をかけて積み上がっていきます。良い経営をすれば、顧客が喜び、社員が育ち、利益が出ます。プラスサムの世界です。

FXは違います。一日の中でも、何時間もチャートに張り付き、神経をすり減らした末に、結果は運次第。自分の努力が、リターンに直結しない世界です。事業を営む人間の感覚からすると、これほど居心地の悪い世界はありません。

みっつめは、100万円を増やすより、減らすほうが圧倒的に簡単だということ。これは、FXに関する複数の経験者が口を揃えて指摘していることです。事業や長期投資で時間をかけて積み上げた100万円を、FXは一瞬で持っていきます。時間と労力で増やすものが、一瞬で消える世界——これは、資産形成の原則と真逆に振れています。

「毎月分配金で生活費を補いたい」「短期で資産を増やしたい」——気持ちは分かります。

それでも、初心者の方には、まずは新NISAで、オルカンとS&P500への積立から始めてほしい、というのが私の結論です。

本業の時間と集中力を守りながら、長期的に資産を育てる。事業に集中している間に、勝手に積み上がってくれる仕組みを選ぶ。それが、経営者にとっても、会社員にとっても、いちばん理にかなった選択だと、いまの私は思っています。

私のFX10万円の損失は、事業に集中することの価値を、改めて教えてくれた授業料でした。1〜2ヶ月で抜け出せたのは、本当に幸運だったと思います。

ふく郎

ふく郎のまとめ

  • FXに「分散投資のつもり」で1〜2ヶ月手を出し、約10万円の損失で即撤退。入金は何度かしたが出金はできずじまいだった
  • 株式市場は長期でパイが拡大するプラスサム。FXは新たな価値が生まれないゼロサム、コストを引けばマイナスサム。海外の規制当局データでは個人口座の7〜9割が損失
  • 仕事中もチャートが気になり、本業に集中できなくなる。業者自身も「本業に支障」と警告し、精神医学ではギャンブル障害の枠組みで扱われる
  • 「ロスカットがあれば安心」は平常時の話。2015年のスイスフランショックでは国内FX業者で33億円の未収金、個人1,137件が証拠金を超える損失を負った
  • 事業の努力は積み上がるが、FXは積み上がらない。経営者にお勧めできる投資ではなく、初心者には新NISAでのオルカン・S&P500積立が遥かに理にかなう
ふく郎
ふく郎

代々続く家業を継いだ40代半ばの現役経営者。近年中に事業を第三者へ譲り、FIREを目指す。 サラリーマンとは違う「経営者視点」のお金の話を、個人資産の実数値を公開しながら発信中。

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